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乗ずるに如かず

智慧ありといえども勢いに乗ずるに如かず

今、大学4年生や大学院2年生は、就職活動まっただ中だ。大変な逆風にみな苦労をしている。みなそれぞれに優秀な学生がなかなか「流れ」に乗りきれない。エントリーシートを書いては面接というサイクルが、だんだんルーティン化して、闘うエネルギーを枯渇させてしまう子も少なくない。

リーマンショックから立ち直らない日本経済を大震災が襲った。経済産業界すべてに不安要素が満ちている状況で、さらに年金制度の行き先不透明なことが、労働者の平均年齢を押し上げる。つまり会社の上のほうが目詰まりしているのだ。

本来ならば、企業は設備投資や新人の採用で将来に備えたいところ。しかし現状の雇用を維持することで手一杯。就職活動をする若者に、明るいきざしが見えないのは当然だろう。なにか、こうした雇用の流れに変化が起きないものだろうか。

「産経抄(☆1)」で、面白い話を知った。

昭和7年の1月場所の直前におきた、相撲協会の大異変のことだ。力士の待遇改善を訴えて、天竜や大ノ里といった力士が、相撲協会に反旗をひるがえした。彼らが立て籠った、中華料理店の名前「春秋園」から「春秋園事件」と言われているそうだ。この「反乱力士」の要望は、結局受け入れられる事もなく、双方の交渉は決裂。結果、大半の有力力士が、相撲協会を脱退することになった。

この直後に強行された1月場所の番付は、残留力士をかき集めた「つぎはぎ」番付だったという。当時新十両だった双葉山は、これで突然に幕内に繰り上げとなった。スタッッフの集団解雇による異例の大出世。これをきっかけに、双葉山は強い上位力士にもまれながら、大横綱へと成長をとげたのだ。この「異変」を大チャンスととらえて大出世をした。

今年の名古屋場所の番付。ちょうどこの時と同様に、異例な「つぎはぎ」だらけだそうだ。八百長問題で数多くの力士が消えて、代わりに5人が十両から幕内に、13人が幕下から十両へ昇進したそ。相撲協会を追われ辛酸をなめた力士がいる一方で、幸運の特急チケットを手にした若手力士がいる。世紀の大横綱、双葉山がそうだったように、これから、この「幸運の流れ」を自分のものとして活躍するものが現れるのだろうか。

就職活動戦線に、いまのところ目立った変化は見えない。しかし、いつかこのような「大異変」が起きないとも限らない。あるいは、ひとつひとつの企業をよく見れば、このような「異変」が見つかるかもしれない。就活生には、なにかこうした「新しい流れ」を待って、うまいタイミングで内定を勝ち取ってほしいと思う。まあ、言うは易しなんですけどね。

冒頭は、「孟子」の「公孫丑篇(こうそんちゅうへん)」にある言葉です。

< 智慧ありといえども勢いに乗ずるに如かず >
素晴らしい知恵があったとしても、勢いに乗ずるほうが優っている。ねばりづよくチャンスを待ち、チャンス到来と見るや、一気にたたみかけていく、これが成功のコツだ。(☆2)

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☆1:6月30日・産經新聞朝刊
☆2:「中国古典の名言録」( 守屋洋・守屋淳著 / 東洋経済新報社 )より