泰平は傾く
「企業に限らず、いっさいのものには寿命がある。今と同一の形態で永遠性を保つことはまずできない。そう考えておいたほうがいいのではないか」。
松下幸之助の言葉を集録した「社長になる人に知っておいてほしいこと」(PHP総合研究所・編)に、この、はっとするような表現を見つけました。松下電器の創始者である松下幸之助ご本人が、「そう考えておいた方がいいのではないか」と語っているのは、つまり松下電器とはいえ、「いずれは無くなるもの」としておいたほうがよいということだ。
いまのパナソニック社員が聞いたら、えらくがっかりしそうなものだ。でも実は、この言葉が表している考え方こそが、会社を長く維持するために重要なことなのではないか。
「いずれは滅びる」というこの考え方は、松下幸之助が、ある禅僧との対談の中で得心したもの。いずれすべてのものは無くなるというのは、仏教における「諸行無常」という考え方で、もっともあたりまえのこと。企業どころか、空に浮かぶ太陽も、宇宙も、仏教そのものも、いつかは消えてしまうのです。
だからといって、私たちの日々の暮らしが意味を持たなくなったり、仕事へのやる気をなくす必要はないですよ。むしろまるで、逆の教えなのです。
すべてのものは昨日から今日へと変化している。日々すべてのものが新しくなっていく。だからこそ、毎日生き生きと生きてゆきなさい。そして、どんなに安定しているときも、固定的な価値観にとらわれてはいけないということ。企業で言えば、同じ戦略をいつまでも続けるといったことをしていてはいけない。恐れずに変化を求めよ。
日本の家電メーカーすべてが厳しい不況に悩んでいる。パナソニックも2010年3月期には、2期連続の最終赤字となったということが明らかとなった。パナソニックには、松下幸之助氏の遺訓を守って、日本を代表する世界企業の意地を見せて欲しいものです。
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平らなものは必ず傾き、
去ったはずの閉塞の時代は必ず復ってくる。
「易教」一日一言(到知出版)から、6月26日「地天泰」の卦の解説です。
泰平の時(平和ですべてがうまくいっている時)はとかく安易に考え、安泰が永遠に続くという錯覚に陥りやすい。しかし、そうした安定を傾かせてしまうのは、「うまくいっている」という油断であり、ゆるんでしまったこころである。会社の経営においても国家においても、平和で安定した時期における手抜きや油断が、のちの危機的状況をまねく。
この世のなにものも、ひとときたりとも止まってはいない。いつかはすべては滅びるのだし、安定は崩壊に、平和は危機へと変わるものだ。そのことを意識することで、生き生きとした毎日を生きることができる。そして、いつかはかならず、再び危機やってくるという意識を持ちつづけてこそ、安定を続けることができる。平和だから、安定しているからといって、決して危機管理を怠ることのないように。
松下幸之助氏の教えはこういうことかと思う。そしてこの教えは、中国の古典「孫子」に流れる中心原理と同じでもある。