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kazuosasaki labo

WEBマガジン 連載アーカイブ

Elephant's Talk

A/C Magazine vol.36 / 2010年 8月

猫のつぶやき

「猫の分際で、人間の言葉で話しかけまして相済みません」
落語「猫」は、出だしからいきなり、猫のセリフから始まる。猫と暮らす男が、その猫と会話が出来るようになってしまう話。桂枝雀師匠らしい、おかしくてちょっとホラー気味の現代物である。実はこの猫、もともと人間の言葉が話せる猫だったのだ。しかし、それを知られ、飼い主に追い出されては困るので秘密にしていた。それが、飼い主と一緒に「テレビ洋画劇場」を見ていた時に、ついうっかり「ああ、ほんとに良い映画だったですねえ」とつぶやいてしまう。男は自分の頭を疑いながら、その猫との奇妙な共同生活を続ける。そしてついには、猫に意見されるようになり…という落語ならではの奇想天外な展開。

ところが、こうした話は落語の世界だけとは限らないようだ。 作家・村上春樹さんの家にいた、長寿の雌猫も人間の言葉を話したことがあるという。 おそろしく頭のよい猫で、他にもいろいろと特殊な能力も持っていた。村上さんの奥さんの目撃談によると、電線に留まった雀を「催眠術をかけて呼び寄せる」という、すごいこともやってのけた。 そしてよく寝言を言う猫だった。この猫がたった一度だけ、人間の言葉を「寝言」でつぶやいてしまった。

この猫、村上さんにそれを聞かれてしまい、ややあわてた様子だったという。その後は「なんのこと?」と知らんふりを決め込んだのだが、時すでに遅し。それを村上さんに公表されてしまった。週刊朝日に連載されていた「村上朝日堂」シリーズ、「長寿猫の秘密・寝言編」という一篇に紹介されているのだ。

象のインターネット網

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photo by : nickandmel

2004年12月26日のスマトラ沖地震で、津波がタイ南部の町カオラックを襲った。この町で飼われていた象8頭は、地震が起きたころに、突然鳴き始めたそうだ。そしてその約1時間後には、客を乗せていた複数の象が突然丘に向かって、猛ダッシュをはじめた。当時ビーチにいた3800人もの人々が、逃げ遅れて津波にのみ込まれたというのに、この象とともにいた人々は、奇跡的に命拾いをした。

アフリカでは、象の雄と雌が、5年ごとに遠く離れたお互いを難なく見つけ出し、数マイルも離れた所にいる象たちは、正確に動きを合わせているという。ボツワナの象たちがチョベ川に向かう足跡を調べると、それは定規で引いたような直線であるだけでなく、それぞれ等間隔の平行線になっている。また、象たちは、何週間も会わずにいた相手と同じタイミングで、別々の方向から泉にやってくる。

象たちには、どうしてこんな不思議な芸当が可能なのか? 象に関する物語「エレファントム」( ライアル・ワトソン著、福岡伸一/高橋紀子訳)は、象たちが持っている信じられないような知覚や通信能力、そして太古へ通じる記憶などについて、魅力たっぷりに教えてくれる。そしてその謎を、科学的な仮説に基づいて、説明してくれる。

おそらく象たちは、超低周波の音波を使ったコミュニケーションによって、それを実現しているのではないか。超低周波はその性質上、どれほど密集した木々にも邪魔されず、深い森の中でも減衰せずに何マイルも進む。自然界の象たちは、超低周波数の音波によるコミュニケーション能力を使い、なんとある種の「無線インターネット網」を形成しているのだ。

「象のネットワークはとても広い範囲に及んでいる。(中略)各個体を結び目として繋がりの糸が四方八方へと伸びている。そうして生み出された網が数百、数千平方マイルに広がり、あるいは国全体を覆い尽くしている。(中略)象の群れというものは、生態系全体の象をすべて含む」のかもしれない 。

地球を覆い尽くす「つぶやき」

さて、一方の人間社会といえば、「魔法の板・iPad」と「高速無線通信」を手にして、ついに地球規模の大規模無線コミュニケーション時代に突入した。ツィッター。ユーストリーム。ニコニコ動画。ミクシー。フェースブック。文明人がこぞって、タイムラグも国境も無いコミュニケーション網に組み込まれていく。住所さえ分かれば、あなたの家の外観を見ることができる「ストリート・ビュー」。自分の撮影した写真が、いつかパブリック・ドメインとなり、子孫たちのアーカイブの一部となる「ピカサ」。

米議会図書館は4月14日、「ツィッター」に投稿された「つぶやき」をすべて収蔵すると発表した。2006年のサービス開始までさかのぼって保管されるという。今日まで465回の、私の「つぶやき」まで、後世の人々の研究の対象となるのだ。そう思えば、ちょっと偉くなったような気もする。しかしそれより、荷が重いというか恥ずかしいというか複雑な気分だ。どうせなら、もうちょっとまともなことを、つぶやいておくべきだった。まさに「綸言汗のごとし」である。

「ツィッター」を、試みに大学の授業に使ってみたことがある。20人程度の教室で使うと 授業の進行にまことに都合のよい道具となる。ある時は「質問箱」となり、またある時は「ディベートの場」ともなり、授業支援システムとして素晴らしい。今の大学生は、人前での「発言」や「質問」をあまりしない。だが、 一旦キーボードに向かえば、突然何かに取り憑かれたように、自分の考えや思いを伝えようとする。彼らは、まさにデジタル・ネイティブの第一世代なのだ。

しかし「ツィッター」を200人を超える規模の教室で使うのはやめた方がよい。大人数の聴衆では「ハンドルネーム」の匿名性が増大するため、 事態は一変してしまう。「つぶやき」のレベルが一気に大暴落するのだ。目も当てられないような「アホつぶやき」「自己中つぶやき」「中傷つぶやき」の洪水となる。群衆というものの生態を、生中継で観察するのは、ちょっと恐ろしい。おそらく通常の「ツィッター」ものも、総体としてはこのような「匿名性」の高い「無責任発言」のカオスなのだろう。

人間が科学技術の成果として手に入れた、無線インターネット網。人間は、その巨大なコミュニケーション網を、自分たちの欲望や争いのままに、使っている。自動車に乗ってライフルをぶっぱなす人間は、戦闘能力においては、象やクジラを上回る。しかし、「ツィッター」に溢れる「言葉」の洪水を見ればわかるように、結局人間がやっていることは、個人的な欲望の実現ばかりだ。

象たちの会話

動物の研究者ケイティー・ペイン氏は、夫のロジャーとともに、バーミューダ諸島でザトウクジラの行動を研究していた。彼らは水中で、人間の耳では聞き取れない、超低周波、超高周波の音を録音して分析。そしてその中から、ある種の複雑で洗練されたコミュニケーション言語のような、音響パターンを発見した。1980年代のことである。

続いてケイティー・ペイン氏は、同じ手法を使い、動物園の象舎にいた二頭の象の会話を録音して見たそうだ。この象たちは、人間の耳で知覚できる音の3オクターブも低い音を出しながら、1メートル近い壁を隔てて、じっと向かい合っていたという。二頭の象が発する低周波音は、分厚い壁を通り抜けて、それぞれの部屋に届いていたのだ。

この時の象たちが交わしていたのが、本当に「象の会話」だとしたら、その内容について是非知りたいものだ。象、クジラ、イルカなど、大型の哺乳類には高等な知能が備わっており、彼らの言葉が解析されることも可能かもしれないと聞く。 解析には、まだまだ、相当な時間がかかりそうだ。いつか、彼らの話の内容を知るときがくるのだろうか。一体彼らはどんな「言葉」で、どんなことを話しているのだろう。

人間は、象牙のために沢山の象を殺して来た。アフリカ大陸の象は今、絶滅の危機にある。野蛮な戦闘能力を振りかざして、人間がこれまでやってきたこと。象は、彼らの言葉でそれを話しているのかもしれない。クジラはそれを歌にしているのかもしれない。幻影のように現れては消える、象たちの幽玄なたたずまい。大自然の王者としての、雄大なクジラの存在感。

彼らはこんな風につぶやいているのではないだろうか。

「人間などは、まだまだ」

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