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LECTURE 講演

DESIGN vs. TECHNO
テクノロジーの波とデザインの変貌について

 

佐々木和郎

 

はじめに

 
デザイナーの仕事をとりまく状況も、バーチャルスタジオの登場、コンピュータグラフィックスの高度化、映像の高品質化(HDTV への取り組み)など、将来のデザイナー像を大きく変えていくような動きが続いています。このたび、この原稿を書くにあたって私がいただいたテーマは「近年のNHKにおけるデザインの実際」ということでした。振り返ってみるひとつひとつの仕事を通じて、これまで日本のテレビデザイン界に起きた変革について考えてみたいと思います。
 

 
 

1980年代:デジタル・テクノロジーの登場

 
私がNHK に入局した1983年は、ある意味で、デジタルテクノロジーの爆発的な拡大と、経済的な展開が同時にやってきた時期でした。CAD(コンピュータ支援によるデザイン)への期待は大きく膨らみつつ、一方で技術に対する理解のない「機械崇拝」が横行もしましたが、多くのデザイナーはこのテクノロジーを熱狂的に受け入れました。映画「トロン」や「ラスト・スターファイター」のような作品が生まれ、シーグラフ(Siggraph)ではCGI(コンピュータ・グラフィクス・イメージ)を使うための新しい手法、革新的なプログラムが次々と発表されていきました。日本でも1985年頃には、CGIを新しいビジネスチャレンジとして事業化する会社が次々に現れ、現在日本の映像業界を支える人材が、時代に押し出されて登場してきました。当時のこうした状況は、あきらかに極端な技術主導の変革の時代ではありましたが、デザインとテクノロジーの急激な接近がデザイナーの将来を大きく変える予感に満ち溢れていたことも事実です。デザイナーが誰しも、こうしたテクノロジーの波に対して、「何か新しいことをを始めなければ」と強く感じ始めたのです。この時、デザイナー側から進んで、テクノロジーへの猛烈な急接近を開始したのです。
こうしたデジタルの波動がデザイン界を覆い始めた時期、それは日本の放送業界にとっての経済的変動期に重なっていました。「バブル経済」と呼ばれる経済の好調が、放送の番組作りの枠組みを緩やかに変えていった時代でもありました。NHK もインハウスばかりではなく、外部の力を借りた制作のありかたを模索し始めたのです。このことが、フリーランスを投入したCG Iの制作や外部の製作会社と協同の制作を可能にしたのです。
 
 

「CGIのためのなにか」 (Something for CGI) 

 
1987年に制作を開始した「驚異の小宇宙・人体」がはまさにこうした時代状況を背景にしていました。この新シリーズの中心になる映像のコンセプトを「CGI」に決めることは難しいことではありませんでした。「人体」という映像化の難しい素材を描かなければならないということ、CGIならばカメラにとらえられないどんな映像でも作り出せるということ、そしてなによりCGIを使うということ自体が新しく、魅力的だったのです。
CGIというテクノロジーが魅力に溢れ可能性に溢れていたことと裏腹に、CGIをとりまく技術はまるで未成熟でした。デザイナーの仕事は、とりあえずCGIを創り出す環境を作ることから始まるのでした。コンピュータはあってもプログラムが未完成、あるいは収録機材がないなどということもありましたし、大概の場合画像をためるフレームメモリーも自家製だったりしました。ハードもソフトもそしてそれを使う人材もみな各種各様で成長の途上にあったのです。
その反面、荒削りながらある意味ではみな個性的であり、デザイナーとしては幅広い表現の可能性を目の前にしていたといえます。「人体シリーズ」はこうしたCGI草創期の熱気溢れる人材と業界の上昇気流に乗って、記念すべき本格的CGI番組の第1号となると同時に内外から高い評価を得ることが出来ました。この仕事を機会にデザイナーの仕事に大きな変化がもたらされました。舞台やスタジオのデザインとちがって、CGIでは画面に現れる映像に直接手をふれるような身近さがあります。またデザイナの仲間も大きく広がりました。大道具さんや大工さんと話しをするのと同様に、CGアーティストや技術者とコミニュケートする能力がデザイナーとしての重要な資質となりました。テレビ映像の世界に出現した、デジタルな表現世界に住む人材たちこそ、次の時代への鍵を握っていたのです。
 
 

「なにかのためのCGI」  (CGI for Something)  への転換 

 
「人体」以後数年を経て、CGIの世界の発展と技術的な成熟には目を見張るものがあります。コンピュータの計算速度の飛躍的向上は、リアルタイムアニメーションを可能にしました。このことがもたらした映像表現の広がりは非常に大きく、映像制作者はモーション・キャプチャー技術による、CGキャラクター、バーチャル・セット、高精度合成技術などを手にしました。CGIのシステムが標準化され、低価格化するにしたがってCGにかかわる人材の裾野も大きく広がりました。デザイナーにとってCGIは特別な宝物ではなく、「何か」を表現するための手法のひとつとして身近に存在するようになったと言えます。「CGIのために何をするか」ではなく「何のためにCGIを使うか」が問題になってきたのです。
子供向け番組はこうした技術のチャレンジの恰好の素材でした。私たちは幼児向けのクラシック音楽番組にリアルタイムアニメーションによるCGキャラクターを登場させ、子供向けのクイズ番組、ポップ音楽番組などに2次元バーチャル・セットを使ってきました。科学ドキュメンタリーのジャンルでは、ミクロの世界を描いた「ナノ・スペース」や脳の不思議を捉えた「人体」の第2シリーズなどにおいて、大規模な3次元バーチャル・セットの実験を行いました。そして今年はついに、バーチャル・セット専用のスタジオを導入するに至りました。
 
デザイナーの世界に伝わってくるデジタルの波動はCGIだけではありません。HDTV(NHK ではHiVisionという規格)のような画像の変革は、デザイナーに映画的な映像表現のチャンスを与えると同時に、セットの建て方設計の仕方に新しい視点の導入を迫っています。インターネットやCATVによるメディア界の形態を根元的な革新を前に、コミュニケーションにおけるデザイナーの役割、デザインのアプローチは着実に変わっていかなければならないのです。
こうした技術的な産物をデザイナーのクリエイションの領域にどうのように活かしていくのか?どんな表現のために使っていくのか?その「何か」を求めるデザイナーの旅は始まったばかりのようです。
 
 

何が変わってきたのか?/何が変わらずに残るのか?

 
しかし今日のテクノロジーは、明日のテクノロジーに取って変わられる宿命にあります。TVとはテクノロジーの固まりであり、デザイナーにとっては、変化を追いかける日常は永遠に続いていくことでしょう。先日JASTAにおいて、バーチャル・セット
について議論をする機会がありました。「テレビ界にとってバーチャル・セットがホットだとすると、それに匹敵する舞台美術の動きは何だろう?」という話になりました。しばらくの沈黙の後である熟年の会員が発言しました。「日本の伝統芸能である歌舞伎の世界になどは昔からバーチャルワールドだよ。」先端的技術を云々するよりも、伝統芸能の空間に昔から存在する虚構の世界に眼を向ける。そこにデザイナーの仕事の原点を見つけることこそ、」このテクノロジーの波にもまれる時代に道を探し出す道ではないかと彼はいっているようでした。
 
変化を追いかけてどこまでも走り続けることもデザイナーの使命ならば、「変わらぬ何か」を探すことも現在の私たちの重要な役割であると考えます。 1980年初頭からのデジタル技術のうねりの中を「あまりにも遠く」へやってきた私たちですが、「あまりにも近く」にある何かを見失ってはならないと思います。私たちのそれぞれの歴史的な資産野中にある重要な物を発見する作業をこれからも怠ってはならないのだと思います。
 

 
 

遠くにある世界との出会い (Co-Production)

 
国を越えた共同制作には様々な形態そして様々な目的があります。私がここ数年の間に体験した共同制作番組も、子供向けのSFドラマや音楽フェスティバルなど色々ですが、共同制作のを通じて海外のデザイナーと仕事をともにすることは、何にも代え難い貴重な経験です。デザインの進め方や手法も違い、美術チームの編成のしかた、スケジュールの立て方まですべてにわたって新鮮な発見があります。
 
私が最も最近海外で仕事をしたのは、フィルム・オーストラリアとの仕事ですが、オーストラリアの美術チームとの仕事のやり方は日本のそれとはまるで違います。オーストラリアでは、美術スタッフ全員がフリーランスです。デザイナー、つまりプロダクション・デザイナーはそれらのスタッフのアート・ディレクターであると同時に彼らの雇い主であり管理者であります。日本、特にNHKにおいては、美術スタッフはほとんどがNHKの職員か関連会社の常駐社員であり、デザイナーもひとりの雇用人にすぎないのです。この違いは、デザイナーの持つ権限の大きさや責任の大きさとなって現れます。現在の所は現れて這いませんが、日本でも近い将来にインハウスのデザイン部門の縮小という方向が出てくるかもしれません。オーストラリアでの美術部の働きを学んだことは、日本の将来のデザインのありかたを考える上で非常に参考になります。
 
オーストラリアのアート・ディレクターに助けられて仕事をしたのとは逆に、ニューヨークのデザイナーが日本で仕事をする上のアシスタントをしたことがあります。非常に巨大なプロジェクトで、映像機材を含めて何社もの美術製作会社をコーディネイトする必要がありました。彼から学んだ最も重要なことは、彼の完璧を求めるデザイン・アプローチそのものなのですが、私にとって興味深かったのは、アメリカの美術チームの動きをコントロールしている厳密な「契約」の概念でした。契約という紙と厳密なお金の保証がない限り何も動き出さない姿勢は見事なものです。日本に比べて融通が利かないといえばそれきりですが、なれあいのいい加減さから一歩進んだ、成熟したプロダクションのありかたについて学びました。
こうしたシステムは、現在のところは、日本には必要のない物で、日本になじまない考え方かもしれません。しかしきっと現在の日本のプロダクション・システムにない「何か」を考える上できっと役に立つと考えます。

海外の違った考え方や違った方法論に出会うという機会が増えたということは、世界中のデザイナーにとって素晴らしいチャンスだと思います。また方法論は違っても、作品をクリエイトする人間としての心には、何の違いもないということも事実です。お互いのシステム、考え方の違いについて知ることによって、逆に「共通する何か・変わらない何か」を発見する機会があるのだと思います。そして、普段は遠くにある何かと近くで出会うことによって、新しい変化の方向性を見つけることが出来るのです。今回のKTDAの展示会の中にも、そうしたチャンスが見られることと思います。
 
 

そして今、再接近するデジタルテクノロジー

 
インターネットの登場は、こうした出会いを日常的な簡単なものにしてしまったようです。特にインターネットが持つ情報の統合化の技術がデザインの世界にも新しい考え方をもたらしています。例えば、デザイナーが使っているCADシステムがインターネットにつながることによって、個人としてのデザイナーが自分一人のために作り上げた仕事が、いつしか世界中のデザイナーの共通資産へと変貌する可能性があるのです。コンピュータとコンピュータが話を始める事によって、いままで個人的なものに過ぎなかった情報があっという間に世界に向けて発信されてていくのです。ネットワーク上に共有することになった情報にはもう「遠い」とか「近い」という違いは存在しません。
 
80年代のはじめ頃からデザイナーがCADを手にした時から、CADは確かにデザイナーを単純な作図作業の繰り返しから解放し、3次元的なシミュレーション・ツールによる新しい思考方法をもたらしました。しかし今やCADは、デザイナーの作図支援マシンやシミュレーション・マシンにとどまらない新しいレベルに変貌をとげようとしています。
バーチャル・セットの登場も、デザイナーとCADの関係をまったく新しい方向へ向けようとしています。バーチャル・セットのシステムによって、CADの中にデザインした仮想の空間が、そのまま実際のスタジオセットになってしまうのです。いままでは、あくまでも実際に立てるセットの事前シミュレーションであったグラフィックが、そのまま仮想スタジオ空間として出現するのです。バーチャル・セットというとセットデザイナーはお呼びでないという間違った考え方をする人もあるようですが、実際の所は映像空間を的確に把握する能力を持ったデザイナーの力が今ほど必要とされている時はないのです。実際に存在しない空間で撮影作業をするのですから、普通のセットで作業するよりも、より映像空間に対する理解力と想像力がスタッフに要求されるのです。より強いリーダーシップと明確なアイデアを持った、新しいデザイナー像が求められています。
 
現在完成しつつあるこうした技術には、かつてのCGIやDVEが持っていたような輝くような吸引力は無いかもしれません。しかし我々デザイナーにとっては、一度遠くまで拡散していってしまったテクノロジーがデザイナーの近くに再集結しているようにも思えるのです。このような応用度の高い複雑な技術に、我々デザイナーがひとつひとつ取り組んでいくことによって、ともすればどんどん遠くへと離れていこうとするテクノロジーの波を身近に引き戻すことができるのではないでしょうか。デザイナーの映像表現の手段は多ければ多いほどいいのですから。テクノロジーをデザイナーの手中に取り戻す作業。テレビ美術のデザイナーの宿命ともいえるこの作業は、現在も過去も変わらない「デザイナーズ・マインド」こそ鍵となるに違いありません。
 
 

韓国 KTDA Association [1996年]での講演より抜粋

[ 研究発表 ] 「バーチャルスタジオの未来を考える」LinkIcon
フィンランド放送局主催・TV映像研究会
Digiillusion Seminar / 2002年
 

[ 研究発表 ] 「テレビ局におけるバーチャルスタジオ」LinkIcon
フィンランド放送局主催・TV映像研究会
Digiillusion Seminar / 2002年
 

[ 講演 ]「デジタル環境におけるテレビデザイン」LinkIcon
韓国TV美術研研究会
KTDA (Korean Television Designer's Association) / 1996年
 

[ 調査 ] 先端映像技術の研究
「ロンドンの映像プロダクションにおける先進的映像制作についての研究」/ 1991年
 

[ 講演 ]「NHKにおけるHDCGの可能性」
マドリッド・ビデオアルコ / ビデオアートセッション / 1991年
 

[ 講演 ]「NHKにおけるCG制作について」
フィンランド放送局・テレビ美術セミナー / 1991年