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kazuosasaki blog

地上の楽園(その1)

_2-1.pngテレビや映画の撮影の仕事では、カメラアングルについていろいろな呼び方をします。たとえば「クローズ・アップ」「バスト・ショット」「フル・フィギュア」とか言うあれです。オーストラリアでの、ドラマ撮影の打ち合わせ。ディレクターが「上空から見た映像」を「バーズ・ビュー(Bird’s View)」という言い方をしていました。

人間には見ることの出来ない空からのアングルを「ヘリコ・ショット」と言うか「鳥の見た目」と表現するか、だけのことですが、言葉としての響きは、ずいぶん違いますね。ドラマの映像も、どこかファンタジックな仕上がりになりそうな気がしてくるから不思議です。

ふと見上げた空。その高い空を飛んでいく鳥たちの目に、地上の景色はどんな風に見えているのだろうか。飛行機の窓から見るのとはだいぶ違うだろうな。僕はよくこんなヒマなことを考えます。特に遙か遠くまで飛んでいく「渡り鳥」。一体彼らは眼下にどんな景色を見ているのでしょうか。2001年にフランスのプレジデント・フィルムズが制作した「WATARIDORI」という映画でも紹介されていた渡り鳥の一種に、キョクアジサシという鳥がいました。これはまた凄い渡り鳥なのです。どのように「凄い」のか、以下ちょっとだけ、そのプロフィールを紹介します。
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キョクアジサシ:鳥網・コウノトリ目・カモメ上科・アジサシ族
体長:33.0-36.0cm(ハトぐらい)
北部ユーラシア、北アメリカ、グリーンランドで繁殖する。冬季は南半球の南極圏に渡って過ごす。日本では8~9月に観察されることが多い。千葉県、茨城県、静岡県、大阪府などで記録がある。

http://www.yachoo.org/Book/Show/739/kyokuajisasi/
オンライン野鳥図鑑・Yachoo ver4
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なにげなく「冬季は南半球の南極圏に渡って」とありますが、夏の間は「北部ユーラシア、北アメリカ…」で繁殖すると言うのですから、このとんでもない渡り鳥は、北極圏から南極圏へ、そしてまた南極圏から北極圏へと、一年のうちに地球を縦に一往復するのですよ。その渡りの距離は往復32000㎞にも及ぶのです。本当にとんでもない「決死の渡り」を実行してしまう、かなり本気の渡り鳥です。

なんでまた、このように途方もない「渡り」をするのか? 渡り鳥の生態には、だいたい謎が多く、このキョクアジサシについても、本人に聞いてみない限り分からない事情があるのでしょう。一説によると、夏の北極圏は彼らにとって天敵も少なく、またエサとなる昆虫も豊富であることから、彼らはこれを「有利な繁殖地」に決めたということのようです。そしてなにより夏の北極圏は「白夜」。決して太陽は沈まないのです。

つまり毎日24時間昼間であることが、彼らのお気に召したのではないでしょうか。北極圏に半年間の夜が訪れる時(日本で言う秋)、キョクアジサシはついに北極圏を離れ、地球の反対端を目指して旅を始めます。この鳥は、別名で「白夜を求めて旅をする鳥」と言われているそうです。ロマンチックな名前ですね。
[ジュンサイ池のカモ・2010年3月18日]
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地上の楽園

僕たち人間の感覚から言うとキョクアジサシのような行動は、よほどの冒険好きでないかぎり「狂気の沙汰」というべきでしょう。自力走行で、毎年地球を一往復するなんて、相当なご苦労とリスクが伴うことが予想されます。でもそういえばこの鳥、羽根の色などのデザインも未来的で、ちょっと得意げな表情をしていています。羽根もなく、地べたにへばりついているしかない僕などにとっては、うらやましい存在でもあります。

南極圏への道中ついでに、日本上空を通過する時、眼下の世界を眺めて、彼らは一体どんなことを思うのでしょう。渡り鳥の立場から、もしかすると、僕のことををこんな風に観察しているのでは…

ニンゲン: 哺乳網・霊長目・ヒト上科・教職員科・通勤亜目
体長:150-190cm(ワシの倍くらい)
ユーラシア大陸東端の、日本列島で繁殖する。夏期、冬季には一時仮眠状態となり活動が低下する。関東では一年中、電車内で観察されることが多い。千葉県、茨城県、東京都などで記録がある。時に大阪府、京都府などでも目撃。一日に50km以上の移動を行うが、その行動目的や思考メカニズムには謎が多い。

千葉県から東京都と県境をまたいで、地べたに張り巡らされた鉄の線路の上を、西へ東へと日々往復運動を繰り返す僕の生活。鳥たちにとっては、こうした僕のような人間の生態のほうが、よほど不思議に見えるのではないでしょうか。たとえ僕が、鳥の言葉が話せたとしても、仕事のことやら人生のことやら、この「地上の楽園」の事情を彼らに説明するのは、かなりの困難が伴うことかと思います。

ところで、僕という人間の生息域は、もっと大きなレベルで見ると「東洋」というエリアに属しているようです。しかもよりによって「極東」などというどこか物騒な言い方で呼ばれています。なんで僕の住んでいる場所は「極めて東の端」と言われるのだろうか? 中学校の教室などに貼ってある世界地図を見ると、日本はまさに中央も中央、世界の「ど真ん中」に自信満々で座っていたはずです。子どもの頃これを見ると、ちょっといい気分がしたものです。それがなんで「極東」なんて呼ばれなければならないのだろう。地理の時間に先生が言っていた何か大事なことを、またもや聞き落としてしまったのだろうか?

この疑問が氷解したのは、僕もかなり大人になってから。ロンドンかどこかで初めて見た世界地図が教えてくれたのです。私が見たその地図は「日本なんて国は知らんよ」という顔をしていました。実際その地図に日本という国はありませんでした。いいえ実はあるにはあったのですが、あるべき所にはありませんでした。

その地図では、日本列島は世界の一番の右端に、か細くひん曲がった状態でへばりついているばかりでした。そう「極めて東端」にです。そして本来日本列島があるべき中央部には、代わりにあの「大英帝国」が、どーんと鎮座していたのです。その地図は私に教えてくれました。「東洋のお兄さんよく見てご覧、本当の世界の中心はここ大英帝国。あなたの国はずーっと東の端だったのですよ。現に世界を縦割りにする中心・子午線0度は、世界に君臨するこの女王の国を貫いております。」