締め切りの話
これからテレビの世界を目指すみなさんのために、
今日も私のコワイ体験談からご紹介させていただきます。
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私が放送局に就職してまだ数年目の頃のこと。
完成したばかりのCG映像をテープに収め、先輩ディレクターのもとへ走りました。
「ササキちゃん、お疲れ。でもこれは受け取れないな」
「えっ? そんな… このCG映像、レンダリングに一週間もかかったのにー」
「〆切に遅れたんだから、受け取れないものは受け取れない」
「遅れたっていったって、たった一日じゃないですか! 」
「あのねー。MA(☆1)に間に合わなかったら意味ないんだよ」
「え? MAなんて、またやればいいんじゃないんですか」
「そんなこと言ってたらキリがないでしょ。たとえ高価なヘリコショット(☆2)だって受け取れない」
「うそー、いけずー! そこをなんとかー(涙目)」
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レンダリングに一週間かかったということよりも、実はもっと大変な事情があたのです。このCGは友人クリエイターに「必ず放送で使うからお願い」と無理矢理にお願いしたもの。番組に使われなければ、謝礼を払うこともできないし、彼にも会わせる顔がないじゃないか。
これは絶体絶命のピンチ!
この後、なんとか私は救われました。事情を知ったディレクターがMA作業をやり直して、CG映像を使ってくれたのです。窮地から脱出できて命拾いした気分でした。悪魔のように見えていたディレクターの顔が、仏様のように見えたものです。
この話には後日談があります。この先輩ディレクターは、私の将来を思って、このときはわざと厳しく対応したのだそうです。だいぶ後に、彼がお酒の席で話してくれました。それを聞いて、私はさらに「へへー」っとなったものです。その後の私が、さらに「時間厳守主義」になったのは言うまでもありません。(たまには、またやらかしましたけど…)
〆切というものが好き、という人はいないでしょう。
時間を守って働くというのはストレスでもあります。
しかしテレビ局にとって時間がすべて。自分の番組が放送される瞬間、それはディレクターにとって「すべてが始まる時」であると同時に「すべてが終わる時」です。彼自身もう番組に手を出すことは出来ない。ディレクター自身がそうなのですから、TV局に働くすべてのスタッフも時間に従うのは当然です。
イラストに描いたバラ。いまが見頃。
バラは毎年、しっかり咲くべきタイミングで咲きます。
自然界にも、生き残りのための〆切があるようですね!
私たちも、そうありたいものです。
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☆1:MA マルチ・オーディオ
出来上がった映像に最終的な音声を加える作業