恐怖のネジ工場(その1)
「君はとても早くネジが作れるそうだが?」
アウシュヴィッツ・強制収容所内のネジ工場。若き青年将校が、熟練工の老人に向かって、こう聞いた。スピルバーグ監督作品「シンドラーのリスト」に出てくるワンシーンです。( ☆1 )
「はい」と老人は答える。
「では、私が時間を測ってみよう。一本作ってみたまえ。」
老いた熟練工は、必死で一本のネジを完成させる。恐怖のあまり冷汗でびっしょりになりながら。しかしそれは、とても素早い作業だったし、ネジの出来映えも申し分ない。よかったよかった。時間を測り終えた将校はこう言う。
「素晴らしい技量だ」
しかし、そう言った青年将校の口元が、突然ひきつって、こう怒鳴り始める。「このスピードでネジを作れるというのに、一日かかって作るネジがこれだけというのは、一体どういうことだ!お前は職務怠慢だ。直ちに処刑する」
このシーンは怖かった。この時この将校の取り出した拳銃が、たまたま不発だったので、熟練工のおじいさんは殺されずにすんだけど。 ( スピルバーグ監督、こういう筋にしてくれて有難う。 )
強制収容所に関する話は全てが恐怖に満ちている。しかしこのシーンは、若きナチス将校の底知れない陰険さが際立っている。人間がここまで冷酷非道になれるのかと、本当に恐ろしくなってくる。
あっ、いや。デザイナーの仕事場と、この工場を比べようという訳ではないのです。第二次世界大戦中の強制収容所と、平和な現代社会のデザイン事務所とでは、まるで事情が違う。 まさかこんな鬼畜将校のような上司が、ストップウォッチ片手に見回りたりはしはないよね。それでも一応、ちょっとだけ検証して見ましょうか。
例えばあなたは、一流デザイン事務所「ウルトラ企画」で働くハヤタ・デザイナー。売れっ子なので、毎日沢山の仕事を抱えています。しかし、徹夜でがんばった結果、予定よりも早くデザインが仕上がりました。そして、部長にこう報告します。
「カワサキ部長。ゴモラ商事さんのパンフ原稿ですが、さきほど完成いたしました! 明日が締め切りだったのですが、一日早く終わらせました」
「ふむふむ。早いね。さすがはハヤタ君だ」と部長。
このあと部長は、どんな言葉を続けるるでしょうか。(つづく)
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☆1:ネジ工場だったか、違う部品の工場だったか、記憶があいまいなまま書いてしまいました。
映画を見直して確認します!