HOME2_off.pngHOME2_off.pngLABO_off.pngLABO_off.pngDESIGN_off.jpgDESIGN_off.jpgDIARY_off.jpgDIARY_off.jpgBLOG2_yellow.jpgBLOG2_yellow.jpg

kazuosasaki blog

アルゴリズムのせいです

「アルゴリズム行進」は誰もが大好き。NHKの人気番組「ピタゴラスィッチ」のメニューの中では「ピタゴラ装置」と人気を二分する大人気コンテンツですね。[*1]
________________

[ アルゴリズム行進(歌詞 抜粋) ]

一歩進んで前ならえ / 一歩進んで偉い人
ひっくりかえってぺこりんこ / 横に歩いてきょろきょろ
ちょっとここらで平泳ぎ / ちょっとしゃがんで栗拾い
空気入れます しゅー しゅー / 空気が入って ぴゅー ぴゅー
_______________

ところで、この「アルゴリズム」というもの、今回の金融パニックで取りざたされています。「アルゴリズム取引」と言われる、コンピュータによる自動取引システムが、あまりにもすばやく、あまりにも過剰に繰り返し反応したために、株式の急激な下落を引き起こしたと言われているのです。一瞬の判断が命取りになる、金融トレーダーの世界。人間の判断では、瞬間的な局面に追いつけずにミスを犯してしまうため、コンピューターが常に、異常な値動きなどがないか、見張っているのだそうです。

今回の株式下落では、どうもそれがうまくいかなかったみたいです。「アルゴリズム」の立場から言えば「言われたとおりにやっただけ」ということ。でも、人間ならば「なんかやばいぞ」ととっさに取引から身を引くところが、アルゴリズムには分からない。「売り局面で売る」のは当然なのですから、世界中の「アルゴリズム取引」は、売りに売りまくったようです。その結果、ニューヨーク証券取引場での、20分間で1000ドル近い下げが起きたのではないかと言われています。人間が「おいおいおい」なんて、びびっている間にも、どんどん取引を進めていってしまう。

前述のアルゴリズム体操も、子供ではなく、大人がそろってやっているところが面白いんです。「一歩進んで前ならえ」なんて言っているうちに、目の前に落とし穴があっても、全員そろって突進していってしまいそう。そういう「危ないロボット集団」みたいな動きが、とても面白いのだと思います。

「アルゴリズム」は最初に人間が決めたとおりにしか動かない。当然です。世界で最も有名なコンピュータ、映画「2001年宇宙の旅」のHAL 9000。世界最高のコンピュータのはずなのに、人間の言ういい加減で矛盾した指示が理解できずに、結局狂ってしまいました。宇宙船の乗組員を皆殺しにしようとしたんですよー。こわいですよね。

映画と現実をごっちゃにしてはいけないのだけれども、直感的に思うのは「アルゴリズムに世界金融をまかせて本当に大丈夫なのか?」ということ。どんな天才がプログラムしたアルゴリズムだって、どっかに欠陥がないとは限らない。上で拝借したフローチャートも、最下段の命令が "Buy new lamp"になっているけれど、今なら "Fix the lamp"というべきでしょ?

ブラック・ショールズ方程式などの理論によって、金融工学の旗手となったマイロン・ショールズという経済学の先生がいます。彼は1997年にその功績でノーベル経済学賞を受賞しました。でもその翌年には、彼が経営する巨大ヘッジファンドLTCMは、空前の損失を出して倒産。さらに2008年、新たに設立したプラチナム・グローブ・コンティンジェント・マスター・ファンドでも、一年間に38%の損失を出して運用停止となってしまいました。

ショールズ先生ですらこうです。並みのプログラマーが書いたような「アルゴリズム」に、世界金融の売り買いをやらせるのは、やめてほしいな〜。
________________

[*1]「ピタゴラスィッチ」のコンテンツの核心部分を担っているのは、東京芸術大学大学院映像研究科教授の佐藤雅彦さん。電通のクリエイター時代から天才だと思っていたのですが、佐藤雅彦さんは、NHKのこの番組でも、偉才ぶりをいかんなく発揮されていますね。私は「アルゴリズム行進」だけでなく「おとうさんスィッチ」も大好きです。
____________________

NYSE.jpg今日の日曜日、ニューヨークでは泥酔したサラリーマンで溢れているのではないでしょうか。先週末にとんでもない損害を出した人。今週の市場のことを考えて死ぬほど不安な人。トレーダーの仕事とは、精神的にかなりしんどいものだと聞いたことがあります。今週一週間、自分は生き延びることができるのか?

一旦商機を得れば、一夜にして大金持ちになる。成功報酬の率がバカ高いので、自分の取引で巨額の収益を得れば、その一部はそのまま高額ボーナスとして自分のものに。何億円というとんでもない額になることがあるそうです。でも一方で、大損害を与えた場合は... ひたすら損害を隠し続けるか、こっそり会社の損害のどこかにすり替えるか、しっかりけじめをつけて退職するか。大損害を抱えたトレーダーは、いろいろと悩み苦しむことになるのです。大変な仕事ですね。

先の読めないリスクだらけの市場で、トレーダーはどうやって生き延びたらよいのか?ほんの少しの情報の断片にすがりつき、複雑怪奇な市場の動きを予想するために、複雑怪奇な方程式でリスク計算をし、結局はそうした中で、自分自身の感性に相談しながら一瞬の賭けに出る。間違えが連鎖的に続いたらたら、すべては終わり。1997年にニューヨーク株式市場の大暴落で、ビクタ ー・ニーダーホッファーさんという1人のアメリカ人投機家 が、たった一日で50億円を失い破産に追い込まれました。この時に、前述のマイロン・ショールズ博士は、彼の破産について、他人事のようにでクールなコメントをしていたのです。そしてそのショールズ博士までも、その翌年には空前の損失を出して、LTCMというファンドをたたむことになったのです。

1998年11月に放送された、NHKスペシャル「マネー革命」という番組は、金融市場というものの凄まじさを見事に描き、このあたりの消息を詳しく伝えています。「マネー革命」では、一方で、しぶとく生き残り続ける天才トレーダーの話も出てきます。シカゴの先物商品取引所(CBOT)でもっとも有名なトレーダー、トム・ボールドウィンです。番組スタッフのインタビューに、ボールドウィンは、その「生き延びる」ための極意をいろいろと答えています。

トレーダーとは非常に孤独な仕事であると、ボールドウィンは言います。たったひとりの人間として、周囲の動きを観察して、他人とは違う独自のアイデアを導き出すこと。他人とは同じ事をしない。昨日うまくいったことと同じ事はしない。ほんの少しの変化の兆候を見逃さない。周囲の人間たちのちょっとした心理変化を読み、市場に立ちこめる空気の微少な変化を感じ取る。状況に応じて判断を変え、決断をしたら俊敏に行動する。

これを聞くと、現代の金融市場におけるトレーダーにとっても、生き延びるための能力とは、動物的な野生、人間本来の身体的感性なのではないでしょうか。戦場において、修羅場となった状況をくぐり抜ける、兵士と同じなのではないでしとょうか。コンピュータの画面ににらめっこしているのではなく、市場という嵐に立ち向かう獣として。

( Photo : wikimedia by Franz Golhen )