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kazuosasaki blog

e-コマースの行方はわからない

ピーター・F・ドラッカー氏は、2002年発刊の著書「ネクスト・ソサエティ」第2部・第1章の冒頭で、IT革命におけるeコマース(電子商取引)の未来について以下のように語っている。

「eコマースは経済、市場、産業構造を根底から変える。製品、サービス、流通、消費者、消費行動、労働市場を変える。さらにはわれわれの社会、政治、世界観、そして我々自身にインパクトを与える。(p.71)」「鉄道が生んだ心理的な地理によって人は距離を克服し、eコマースが生んだ心理的な地理によって人は距離をなくす。もはや世界には一つの経済、一つの市場しかない。このことは、地場の小さな市場を相手にする中小企業さえグローバルな競争力を必要とすることを意味する。競争は、もはやローカルたりえない。国境はない。(p.79)」

ドラッカー氏は、ネット上の電子取引によって、世界中の多様な製品が注文可能となり、グローバルな配送網の実現が、さらに物理的な距離とは無関係の、全く新しい商品市場が生まれるということを予見する。商品価格は、その産地の地域特性とは関係なく決定される。生産者による独占が無い限り、市場の閉鎖性による価格差も消滅する。消費者から見ると、その土地に行かなければ手に入らないという、距離のカベも取り払われてしまう。生産者の事業規模の大小も、問題にはならない。市場価格のバリア、距離のバリア、事業規模のバリア、これらが消滅する。

ネットという市場で自由競争によって売買されるということ。そして、世界中どこへでも最短時間で配送されるということ。ネット市場と新しい物流網。この2つのイノベーションによって、eコマースは成長し、巨大なインパクトを与えるという、ドラッカー氏の予見。これらは、まさに今、われわれの目の前で現実となりつつある。以下、その実例を最近の新聞記事から拾ってみたい。「ネクスト・ソサエティ」発刊8年後の現在、eコマースについて改めて考える。


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「はこB00N」
サイト競売品を4社連携配送

「ファミリーマートと、ヤフー、ヤマト運輸、伊藤忠商事の4社は、2010年4月から、コンビニエンスストアを経由した競売サイト商品の物流で連携する。国内最大大手ヤフー競売サイトの商品を落札者に発送する際に、ファミマの情報端末で手続きができ、通常に比べて送料を最大半額に抑える仕組みを構築する。その名も、”はこBOON(ブーン)”。」[☆1]

ネットオークションでの売買成立後、その商品の発送は、売り主の責任において行われるのが通常だ。運送会社の選定、運送方法、価格などは、買い手と売り主との相談で「決める」ものだ。しかしそれは、買い手にとっても売り主にとっても、意外に面倒なものであり、トラブルのもとでもあった。このへんの問題を一気に解決する妙手の登場だ。商品の持ち込みから受け渡しのステーションとして、全国に約7600店舗を持つ、ファミマを使う。そのステーションを結ぶのが、ヤマト運輸の配送網。システムの構築は、ファミマの筆頭株主である、伊藤忠が担当する。サービスは3月3日から開始とのこと。

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「巣ごもり」販促需要が追い風に
ネット通販、2ケタ成長続く

「消費者関連サイト運営企業の業績が拡大している。楽天、カカクコム( ぐるなび、スタートトゥデイ、クックパッド)など主要7社の2009年度は、全社が前年度比で営業増益となる見通し。背景にあるのが節約志向。消費者が手頃で低価格な商品を求めて通販サイトを利用する頻度が増加」

「巣ごもり消費」の影響で、「楽天市場」の出店店舗数は2009年12月末までの1年間で21%の増加、サイト運営事業の営業利益は、前期比で39%増加している。スタート・トゥデイのZOZOTOWNも、著名ブランドの出展が相次ぎ好調。通販サイトに消費者を誘導する、比較サイトも好調で、カカクコムの主力サイト「価格.com」では、有料で価格情報を掲載する企業が増加しているという。

外食産業の不振のなか集客効果を期待して、ぐるなびに店舗の情報を掲載する飲食店は5万点を超えている。レシピサイトを運営するクックパッドでは、食品メーカーから自社製品の販促企画掲載の申込が増えているということだ。

野村総合研究所によると、2009年度の消費者向け電子商取引は、6兆5000億円と、2009年暦年の全国百貨店売り上げ高に迫る。さらに2010年のネット通販は、今年度比17%増の7兆6000億円程度に拡大する見通しだ。
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何がeコマースに乗るのか

前述の「ネクスト・ソサエティ」、ドラッカー氏は、一方でこう問いかけている。

「しかし、何がeコマースに乗り、何が乗らないかはわからない。流通チャンネルとはそういうものである。 鉄道が経済的な地理と心理的な地理の両方を変えたのに比べ、なぜ蒸気船にはそれができなかったか、なぜ蒸気船ブームが起こらなかったかは誰にもわからない。(中略) 明らかなのは、eコマースの転換をもたらすものも予測しがたいということだけである。」

ここでいう「予測しがたいもの」のとはなんだったのか。ネット市場と物流網、という二大要素は、ドラッカー氏の予測通りの強みを増してきているが、現時点において、今後の展開を伺わせるキーとは何か。注目すべきは、ネット市場と物流網の、それぞれにおける新しい複合的サービスだ。

1:ネット市場ににおける、複合的な消費者誘導サイト
ネット上の商業空間において、各種サイト(総合的サイト、専門的サイト、消費者をサイトに誘導する比較サイト)が複合的な構造を形成し、「検索」による商品探しが、消費者にとってより合理的で、信頼できるものになっているということ。さらに重要なのは、こうしたサイトに対する、オフィシャルな企業によるバックアップが増加していると言うことだ。まるで "iTunes Music Store"に、大手レコード会社が、競って出店しているような状況だ。[☆2]

2:コンビニエンス・ストアをキーステーションとした新しい配送システム
日本では、全国的な宅配配送網の整備が進むとともに、コンビニエンス・ストアの各店舗が、新たな物流のキーステーションとしての役割を担うようになったこと。システムとして高度に効率化された宅配網と、全国における24時間管理のコンタクトポイントとしてのコンビニが組み合わされることで、まさに柔軟で安全な物流が実現する。また、この配送システムは、都市部における、個人生活の時間パターンと、個別ニーズにも合致するものである。

ドラッカー氏は、ネット革命によって生まれる変革について、産業革命時代に起こった変革と同様に、予測不能なものとして捉えている。そしてまた、変革期に生まれるものの大半は、すでに存在したもののプロセスを変えたものでしかないと指摘している。「消費者誘導サイト」にしても「コンビニをキーステーションとした配送網」も、あるいは単なる「既存システムの再配置」にすぎないものなのかもしれない。

あるいはしかし、実はこれらのサービスは、大きな意味で社会構造を変え、経済システムを変え、ものの価値観を変える動きなのかも知れない。eコマースは、ついに人間社会の本質的な構造変化をもたらす鍵を掴みつつある、ということなのか。ドラッカー氏の問いかけに、本当の答えが出るのはいつのことだろうか。

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☆1:日本経済新聞 2010年2月25日朝刊より
☆2:『iTunes Store』で100億曲ダウンロード達成

Apple は2月25日、人気オンライン音楽ストア『iTunes Store』で楽曲のダウンロード数が100億曲の大台を突破したと発表した。Apple によれば、100億曲目になったのは Johnny Cash の『Guess Things Happen That Way』だという。以前、ダウンロード数が50億を突破したのは、わずか1年半前の話だ。( japan.internet.com )