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kazuosasaki blog

円偏光の右巻き左巻き

435px-Louis_Pasteur,_foto_av_Félix_Nadar.jpgさて、「円偏光」の話を続けます。
「円偏光」の光が、地球生命の誕生の謎に関係していたという、壮大な話です。


ルイ・パスツゥールは、コッホと並んで近代細菌学の開祖とされる、19世紀フランスの偉大な生化学者です。彼は若い頃に、先輩であるジャン・パブテスト・ビオーが発見していた「有機化合物における旋光性」について、さらに研究を進めて「酒石酸の性質の解明」という論文を書きました。

photo by : Gaspard-Félix Tournachon

酒石酸というのは、ブドウその他の果物にふくまれている化合物であって、あるきまった旋光性(偏光を通すと、その偏光面が左右どちらかにまわる性質)を持っています。そればかりでなく、もう一つブドウ酸という別種の酒石酸があって、これには旋光性がないということも分かっていました。それはなぜなのか?

これに対してパスツゥールは、「分子自身の構造に何か左と右の違いがあるから」と考えて、酒石酸とブドウ酸の結晶の形について、徹底的に調べたそうです。その結果、彼が発見したのは、酒石酸の結晶を顕微鏡でよく見ると、その形は非対称であることが分かったのです。そればかりか、それらは、みな向きが同じ非対称だったのです。

これは生化学における大発見でした。なぜならば、この実験にはじまる一連の研究で、パスツゥールが発見したのは、「生命界の有機体には、大部分、旋光性があり、これに対して非生物界の物質の溶液には、まったく旋光性がない」ということだからです。つまり、非対称な分子化合物をつくるのは生物だけであって「その向きはみな同じである」ということなのです。パスツゥールは、この発見を「現在のところ無生物物質の化学と生物物質の化学との間にはっきりと引くことのできる唯一の境界線」と述べています。[*1]

現代においては、有機物自体は、ある条件を与えさえすれば試験管の中で、簡単に作り出せることが分かっています。まだ、生命が生まれなかった、原始地球の海においても、このような環境がそろっていたと考えられています。つまり、アミノ酸の部品となるような有機体自体は、ひとりでに作られたに違いない、というのが現代科学の定説です。しかし、パスツゥールが発見したように、生命界の有機体の向きがすべて同じなのか(左向き)、その理由だけが「大きな謎」なのです。
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[*1]「自然界における左と右」( 訳:坪井忠二、藤井昭彦、小島弘 )
第12章「いろいろな分子」より
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orion.jpgその「大きな謎」への答えとなるかもしれない観測と研究について、先日の4月6日、あるニュースが報じられました。国立天文台のメンバーをはじめとする日英豪米による研究グループが発表した「オリオン大星雲が発する円偏光」についての研究成果の発表です。
美しいなー。左の写真はスピッツァー宇宙望遠鏡がとらえた「オリオン大星雲」の赤外線写真です。(この写真はNASAのもので、国立天文台の研究とは直接の関係はありません)

国立天文台の研究グループは、円偏光をとらえる近赤外線偏光観測装置(SIRPOL円偏光モード)を開発して、オリオン座の星形成領域であるオリオン大星雲の中心部の円偏光撮像の観測を行ったところ、円偏光の広がりは太陽系の大きさのおよそ400倍以上に相当することがわかったのです。
ちなみにオリオン大星雲における「円偏光」は、ある方向に右巻きが放出され、別の方向に左巻きが放出されているのです。どちらにせよこれだけ強力な「円偏光」の光にさらされていれば、その付近のアミノ酸は、すべて「どちらか巻きだけ」になってしまうだろうということです。ここからは推測になるのですが、おそらく太陽系が誕生して間もない頃の地球にも、このように強力な「円偏光」の光が、銀河のどこかから降り注いでいた可能性がある。そのために、ちょうど地球上に誕生した、有機体のベビーたちは、みーんなそろって「左向き」になってしまったというのだ。

私個人としては、この話なら結構納得がいきますね。ちょっと信じます。