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三人行かば則ち一人を損す

三人で旅行に行くと、途中で、ちよっとしたことで揉めたりしませんか?
つぎの目的地をめぐって、ひとりだけなんだか浮いてしまったり。あるいは、二人がひそひそと、残りのひとりの悪口を言い始めたり。ただでさへ、グループ旅行というものは、もめごとが起きやすいのだけれども、三人というグループは特に揉めやすいのではないだろうか。

古来より伝わる易経の「卦」に、「山沢損」というものがあって、その卦が表すところに、この三人という状態の持つ問題があります。

「三人行かば則ち一人を損す」

易経の根本原理にある「陰陽説」によれば、この世のものは、すべて陰と陽のふたつの要素が、引き合ったり、離れたりしているもの。常に二つの要素による「ペア」が基本となっている。したがって、三という数は、必然として不安定なものとなる。「三人で仲よし」という状態は、一時的には成立し得る。しかしいつしか、どちらかのペアがより親密になりすぎたりすると、残ったひとりが嫉妬したりする。いつか必ずや不穏な状態を引き起こすものなのだ。

「一人で行かば則ち其の友を得る」

さて、山沢損の卦の教えは、さらにこののように続く。ひとりの人間が、何か一生懸命やっていれば、それはかならず誰か援助者を得ることになる。「三は一を欠く」のと逆の原理で、ひとつのものは、必ずペアとなる仲間を呼び寄せることになるのだ。だから易経では、重要な話しや相談ごとは、二人だけでじっくりするのが良い、と教えている。

四人といえばビートルズ

20世紀のポピュラーミュージックに革命を起こした、この四人の友情は本当に強固なものだったようです。以前紹介した、ジェフ・エメリックの著書にも書いてありますが、この四人が揃っていると、特別な「インナー・サークル」が生まれるのだそうです。そのサークルには、他の誰もはいり込むことはできないのです。特に、イギリスでブレイクした1962年以降、世界中をコンサートツアーで、駆け回る彼らは、まさに一心同体の共同体だったのです。最高のライブ演奏を聞かせる彼らは、本当の意味のバンドだったのでしょう。

しかし、次第にこの四人の間にも、微妙な変化が訪れます。

特に、最高の親友だったジョンとポールも、お互いの才能を認め敬愛しつつも、次第にライバル関係のようなものも生まれてくるのです。このライバル関係こそが、二人が二人とも世界的なソングライターになる由縁なのだけれども、だんだん「実験的音楽」にのめりこむジョンを尻目に、ポールだけが音楽的な高見へとどんどん成長していく。アルバム制作の中期となると、そのことは歴然で、プロデューサーのジョージ・マーティンに変わって、ポールがビートルズの音楽監督的存在となっていくのです。ジョンが、スタジオにオノ・ヨーコさんを連れてくるようになるのも、実は、こうしたポールの独壇場に対抗する必要があったからなのかもしれません。

こうなるとジョージとリンゴの存在が微妙なのは、なおさらです。独りでどんどん天才的な作曲の境地を切り開いていくポールに対して、二人の存在は次第に重みを失っていく。世界ツアーをやっていた時に必要とされていた、バンドメンバーとしての価値はなくなっていくのです。四人の関係は、次第にぎくしゃくしたものとなり、ついには本当に険悪なムードに支配されるようになったそうです。特に、あの傑作「ザ・ビートルズ(ホワイト・アルバム)」のレコーディング当時は、お互いの顔も見たくないような状態だったとは、信じられないですね。