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コミュニケーションの森

_2.png「ある森にある音声の周波数は、すべての帯域が各種の生命によって埋め尽くされている」という考え方がライアル・ワトソン著「エレファントム」 の中で紹介されている。正確を期すために、以下一部引用させていただく。

「生態が安定したところでは、生物音が切れ目なく全体を満たしている。あらゆる周波数のスペクトルがきちんと埋められているので、音が一つの完全な状態を保っているのだ。それぞれの地域で、生物たちは互いに穴埋めをするように音を出している」[*1]

そして、その音のコミュニケーション全体の底辺で、長く遠くまで届く、超低周波の音域を使っていたのが象であったという。ワトソン氏は、その象が絶滅に瀕している南アメリカ大陸では、「象が占めていた重要な場所(音声帯域)には音の穴があいている」と述べる。

象たちは、それぞれの個体が、信じられないほどの広大な行動範囲を持ち、そしてお互いに遠距離の通信手段(低周波帯域の音声コミュニケーション)をしている。したがって、象がいる地域には、象社会による通信ネットワークが形成されていた。象たちは、人間社会よりもずっと早く、ワールド・ワイド・ウェブによる社会コミュニケーションを作り上げていた。

それが、象たちの信じられないような行動(ばらばらの個体が同時期に一斉に水場に集まる、離れた場所の象同士が平行線を引くように移動していく、広い地域に点在している雄と雌が、一年のある時期にだけ出会うなど)を可能としていたのだ。その素晴らしいネットワークが、いまや人間による乱獲によって分断され、消えていこうとしている。

[*1] ライアル・ワトソン著 / 福岡伸一訳 「エレファントム」 p.330
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おそらく、大海を回遊するザトウクジラや、ネズミイルカたちも、象と同様に、地球全体を取り巻くような、巨大なネットワーク社会を形成しているのだろう。ワタリドリも、たぶんこのようなコミュニケーション・ネットワークを使っている。使われている言葉自体は、単純で原始的なものかも知れないが、彼らの行動範囲と、音声を使う能力の高さからいって、何か人間の理解を超えたやりとりが行われていると考えることは可能だ。

そして、もしかすると、彼らの社会だけで交わされている言葉では、この世界全体を支え、隠れた生命を呼び起こすような、不思議で重要な役割を果たしていたのかもしれない。ライアル・ワトソン氏の、以下のような発想には、そうすぐには同意できないだろうが、しかし、こういった発想で、我々人間の感性を高めていく必要はあるのではないだろうか。

「これは重要な発想だと思う。自然を全体として捉え、その鼓動を聴くことの大切さを教えてくれる。一部の分化において、ある種の音が自然に有効に働きかけをすると考えられているのもうなずけるだろう。彼らは音によって世界の裂け目を癒し、森の隠れた生命を呼び起こすことができると考えている。音は不毛の地に眠るしなびた種を蘇らせ、恐ろしい獣を手なずけ、荒れ狂う奔流をなだめ、巨大な岩を動かす」